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ダイヤモンド(英語: diamond)とは、炭素 (C) の同素体の1つであり、実験で確かめられている中では天然で最も硬い物質である。
石言葉は「永遠の絆・純潔・不屈」等。
                      ―――「Wikipedia」より引用

「貴女ほどの優秀な研究者なら、お分かりになりますよね? ”アニバ女史”。」


俺がそう言い放つと、彼女は整った細眉を引きつらせ、明媚なご尊顔を激しい怒気に歪ませてから、凄まじい勢いで研究室を出て行った。
扉を閉めた衝撃で棚の論文が数本落ちたのだから、今の彼女は地獄の門番さえ鼻息ひとつで吹っ飛ばせるだろう。
研究室に小規模の嵐を巻き起こし、高い踵で床を殴りつけながら去って行った女性研究者。




彼女の名は、アニバ・ロズウェル。
俺が唯一、好敵手として認めている若手研究者だ。


初めて出会ったのは博士課程後期での学会だったか。
あの時は博士号を確実に獲得するためのもう一押しがほしくて、学会賞を獲ることが第一命題だった。
だから発表時、敢えて質問を誘導するための取っ掛かりを作るという小癪な真似をした。
本来の俺ならばそんなことはしない、むしろしなくても質問に答えられるよう準備はしていたが、念には念を、だ。

そうしたら見事にその取っ掛かりに食いついてくれたのが、彼女だった。
キリリと伸ばした背筋、英知溢れ出る果敢な表情、明朗で深いアルトボイス。
そして何より。世の全てを穿つことを目的として磨き抜かれたかのような、蒼い瞳。
彼女の士気は、志半ばでこの世を去った父のそれと、まるで同質だった。


時に、研究者とは捻くれ者が多い。
5歳児のような知的好奇心に溢れていながら、その身体は粘っこい出世欲と自己顕示欲に塗れている。
結局は名誉と肩書がほしくてたまらない。小賢しさがなきゃ生き残れやしない世界だ。

そんな世界を渡り歩いてきたからだろうか。
他の研究者には持ち得ない、彼女の素直さには目を見張った。
疑問を呈しながらも自分なりの考察を告げ、今後の展望まで問うてくる彼女が、純粋に道を切り開くことを目的としていると、すぐに分かった。
この人は、俺と同じところを目指す”研究者”だと。


彼女の発表自体も素晴らしいものだった。
多彩な観点と思考力。既存の研究結果をそのまま引用せず、自分なりに解釈し直している点も心強い。
後から聞いた話だが、某大学で才女と呼ばれる逸材だという。
俺をヘッドハンティングしにきた大研究所のお偉いさんは、こう評した。


「まぁ君ほどではないにしろ、彼女も天才と呼ぶに相応しいな。どう思う?」


天才? この世で一番嫌いな言葉だ。
反吐が出そうな気持ちを堪え、俺は慇懃に微笑み考察を告げる。


「ええ、………そうですね。少し変わった表現をしますと、彼女は、」


”C”のような人だ。


 


彼女が去ったあとの研究室で、俺はひとり、思惑を巡らせた。
8割方完成している技術論についてではなく、彼女についてだ。


入社式の挨拶にて、彼女は俺の父を尊敬していると言い放った。
その時俺に向けた眼は、学会で俺に質問を投げかけた時の眼と同じ。
理を司り、全てを射抜かんとする、科学者の瞳。
あれを道端の小石と見紛う人間が居るものか。


全体で見れば仄蒼く、しかし根底は銀に光る、 それはブルーダイヤモンド。
唯の炭素の塊を限界まで凝縮させ、血が滲むほど研磨して、希望の輝きを閉じ込めた、価値の礎。
科学者である前提に、ひとりの女性としての姿が。


「………… あんな人を、さぁ」


机の上で、せっかくかき上げた実験手順書をクシャリと潰し。
その下から覗く彼女の論文に、熱っぽい溜息を落とした。


「 ファーストネームで呼び捨てなんて、できるかよ………っ 」



――――そもそも何であの人は、そういうことを平気で言えるんだろうか!
学生時代も周りの男共に呼び捨てさせてたのか?
理系の野郎共は大抵思春期を引きずりまくっているカワイソウな輩であることを知らないのか?

あんだけの美貌―――― 否、深い意味はない。客観的に見て眉目秀麗、格調高雅と称すべき容姿の女性を!
この俺が!呼び捨てに!できるわけがないだろうふざけんな!

………分からん。女と言う生物はどんな複雑な反応経路よりも理解しがたい。
大した意味はないに決まっているのに、偏った観点から考えてしまう俺自身がどうしようもないってのは重々承知だ。
苦し紛れに”女性だから”と言ってしまったが、男尊女卑ととられても仕方のない失言だったと、猛省している。


そういう意味じゃねぇんだけどな、でも直接的になんてゼッタイ言えない、セクシャルハラスメント問題に煩い昨今、明日以降の彼女との関係に問題が生じたら俺は俺は俺は。違ェよ馬鹿そういうんじゃねぇよ、仕事上での問題だ、もういいや、今は実験に集中しないと――――



……… ――――顔が熱い。頭が回らない。
どうやら本当に疲れているようだ。流石に二徹はきつい。
学生時代は余裕で三徹はいけていたのに、身体の衰えを粛々と感じる。
そう、だからこれは疲れだ。疲弊による発熱だ。
あるいは好敵手に対する絶対的な熱意だ。それ以外に理由がつかない。そうに決まっている!

駄目だ、仕事になんかなりゃしない。
たまには彼女の言う通り、定時で帰って身体を休める必要もありそう。

そう思いながら身支度を整えると、彼女の覇気が落として行った論文を片付け、器具や薬品のチェックを済ませ。
いつもより随分早めに、研究室の電気を消した。


研究室の電灯スイッチを”OFF”に切り替える。
明日以降の働きに希望を見る。
そして―――― ダイヤモンドに対する密かな鼓動を抱く。

それらに身を委ねるのは、 件の夜が最後であり。


彼女に謝ろうとしていた気持ちも、どうしていいか分からなかった胸の高鳴りも、
DNAの一部と共に切り取られ、今や俺にとって必要ないものと相成った。



ふたつの歯車がダイヤモンドを粉砕し、それはただの炭と化し、蹴散らされて風に浚われ。
時折彼女の瞳を思い出しては、絶望の潦に身を浸す俺は、今や出来損ないの人間もどきである。
信じたくなかった。それでも、信じざるを得なかった。
俺は全てに裏切られたのだ。


ロズウェルさん。………いや、アニバさん。

「――――…… 科学の発展は、 人の幸の為にある。」

俺が今でもこの台詞を言える場所を探して彷徨っているなんて、知ったら貴女はせせら笑うのだろうか。
それとも、またあの瞳で俺を見据えてくれるのか。

既に人間でもない癖に、研究者としての誇りを捨てきれずにいる。
そんな俺に、真っ向から意見してくれる声は――――― もう聴こえないだろう。








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