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昼間は親子連れでにぎわう公園も、深夜になると人気はない。
ヴィンセントさんをベンチに座らせて、隣に腰を下ろし、背をゆっくりと撫でる。
彼は両手で顔を覆い、うつむいている。随分と具合が悪そうだ。

街に来たばかりなのに、あれこれと連れまわしすぎただろうか。
彼は、今日他国から此処に着いたと言っていた。疲弊がたまっていて当たり前だ。
少し休んだら宿まで送って行こう。

「ヴィンセントさん。私、お水を買ってきますので、ちょっと待っててくださいね―――」

そう言って腰を浮かしかけた瞬間、その手を強く握られ、引っ張られた。
細い腕のわりに強引な力で、私のお尻はベンチに戻る。

「っ、ヴィンセント、さん…………?」

彼の骨ばった冷たい手が、ぎゅう、と私の手を握る。
指同士が探るように絡められ、一瞬にして体温が上がるのを感じた。
彼の顔は、依然として伏せられていて、見えない。
え、なにこれ。  …………何、これ?!

「あの、あのっ わ、わたし、おみずを――――!!」

「そんなの、いいから。」

私の肩に重みがかかった。彼の身体がしな垂れかかってくる。
全身が毛羽立つ。お尻のあたりがむずがゆくなる。
心臓どころか五臓六腑まで爆発しそうだ。

「傍にいてよ、 水なんて、いらないから…………」

彼の熱っぽい声が耳元で聞こえて、鼓膜を伝わって。
体温が覆いかぶさり、眼前で銀の髪が揺れる、その瞬間。


「 ―――― キミの血を頂戴? 」


ガーネットの瞳に宿るのは好奇心などではない。
飽くなき欲望と、加虐心。
彼は、 魔物と同じ目をしている。



私は反射的に空いている手を突き出して、彼の肩を押した。
その手首をつかまれ抑え込まれそうになり、咄嗟に振りほどこうとする。
細身の彼の力は、 異常に強い。

頬が裂けんばかりに弧を描く唇の向こうで、赤い舌が覗く。
今までとは違う意味でゾクッとした。

「やッ――― やめて、くださいっ!!」

無我夢中で足を振り上げ、彼のお腹めがけて蹴りを放つ。
手ごたえはなかった。
足が当たる直前に、彼はベンチから飛びのいていたから。

少し離れた位置で月光を浴びる男性は、先ほどまでのヴィンセントさんじゃない。
鋭い八重歯をむき出しにして、私を嘲笑っている。
―――― ”吸血鬼”の 顔だった。


「………惚れた男を足蹴にするんだ。いい根性してるじゃん?」

小馬鹿にするような物言いに、これまたさっきまでとは違う意味で顔が熱くなった。

「惚れてなんか……っ!」
「嘘つき。会った瞬間から熱っぽい目ぇしてたくせにさ。……あれ、誘ってたんじゃねぇの?」

下卑た笑みを浮かべる彼に対し、今はもう、甘酸っぱい気持ちなど抱かない。
ひたすらに腹立たしく、憎らしかった。
血を奪うために弄ばれたのだと、表情や言動から読み取れるから、余計に悔しい。

「食欲抑えるの、しんどかったんだけど。まだお預けするつもり?
アンタ、普通の人間じゃないでしょ。魔族かなぁ………すげぇ美味そうな匂いがする。」

立ち上がり、舌なめずりする彼から距離を取る。
血を与えるのはもちろん、嫌だ。しかしそれより、騙されたことが許せなくて、彼には怒りの感情しか湧き起らない。

「………最低。貴方みたいな吸血鬼は大嫌いよ。」



実は以前、餓死しかけている吸血鬼を助けたことがある。
住んでいた村で吸血鬼という正体がばれてしまい、村人全員に追われ、命からがら街まで逃げてきた女性だった。

血の代用品を持ち歩き、薬まで使用して、極力血をのまないように努めていた彼女。
私が血を分け与えたとき、泣きながら何度も礼を言っていた。
その様子を見て、私の方が申し訳なくなった。

彼女は次の日、「このお礼は必ずする」と書置きを残し、名も名乗らずに姿を消した。
後日私宛に、貴重で滅多に手に入らない材料ばかりを使用した調合薬が届いた。


世の中には、そんな吸血鬼もいるのだ。
心優しく、誰も傷つけず生きようとする、脆く儚い存在が。

―――― でも、この人は違う。

「騙された方が悪いんだよ、おバカさん。
いいから早く、喰わせろ。殺しはしないから、ね。」

弄んで嘲笑って、楽しんでいるのだから。


私は肩を怒らせ、つかつかと彼に歩み寄る。
向こうが身構えるのを待たず、右手を振りかぶって、白い頬を張った。
静寂の空気で木霊する、強烈な音。

彼はこちらを横目で窺い、一瞬消した笑みを再び浮かべる。
唾液を吐き出し、唇を拭う―――― その所作さえまだ美しいって、思ってしまう。
悔しい。

「最低だッ……… どうしてそんな風にしか、血を求められないの?!」

涙で目の前がにじんでゆく。
振り上げたままの右手首を、強く掴まれた。
まっすぐに此方を見据える朱色の目が冷たい。彼はわざと殴られたのだろう。

「血を分けてほしいって、頼むことだってできるじゃない。なのに、どうして――――」
「アンタは本当にバカだね。」

恐ろしく冷えた声が、私を掻き切った刹那。


右手首の内側に強烈な痛みが走り、叫びをあげた。
皮の薄い部分が噛み千切られ、太い血管に牙が届き、裂いて抉っている。
濁流となった血は、彼の端正な口元に吸い込まれ、一滴も零れることはない。

「痛い、痛いっ!!いやぁッ、やめて…………この、ッ!!」

左手に雷をまとわせて拳を握り、彼の首元を狙う。

突然、目の前が真っ暗になった。
彼の背から開いた夜のような両翼が、彼と私の間に入り込んでいるのだ。
私の拳は羽に阻まれ届かない。まるで、鋼みたいに硬くて。

「い――――い゛やだあ、……ッい―――うああ…ぁあ…………!!」

困惑しているうちに、身体に力が入らなくなった。
頭が重くて眩暈がする。

痛みはもう感じない。
手首から血が失われていく、非常に嫌な感覚だけが、私の身体を蝕んでいく。



気づけば両膝をつき、右手首をかばう形で蹲っていた。
頭に霞がかかったように何も考えられない。
ちかちかする視界の中で、彼の妖艶な笑みが浮かんだ。

「こういうところが見たいから、貰うんじゃなくて、奪うんだよ。」

横に裂けた手首の傷から、細く血が流れて地面に垂れる。
魔族であるが故に、回復力が人間より優れているから、傷はすぐにふさがるだろう。
でも、血を失いすぎている。
悔しくてたまらないが、彼に立ち向かうことが、今はできない―――


「イイ子だね、ポーラ。アンタは俺の思い通りに動いてくれた。」

「ごちそうさま。 また、喰いに、来るから 」

「 それまでに死んだら 許さないよ。 」


頬を撫でてゆく風のような掌に、噛みつくことさえ叶わずに。
涙の染みしか残せないのだろう。

私の意識は、自分の浅はかさを悔いながら、夜の狭庭に沈んでいった。




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