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彼女に初めて会った場所は、大きな街の小さな路地裏。

「あれ?」

ボクの顔を、路地裏のコケのように湿った視線で睨めつけながら、彼女は言った。

「なんで効かないの。」

弛緩した笑みの引き攣った口角から、焦りが伝わってくる。
仕事を終わらせたばかりで、お気に入りのスイーツバーへ向かおうとしていたボクは既にオフモードだったけれど、勘はちゃんと働いた。
彼女は、ボクに友好的ではない。

「何のお話?キミ、ボクにお薬でも飲ませてくれたっけ?」

ポケットに手を入れれば、未使用の注射器に充填した毒薬がある。
頭数個分下にある彼女の首まで、この至近距離ならばすぐ届く。
リーチの差的に逃げられることも無かろう。

「ああ~、そうかぁ」

しかしボクの手はそれ以上動くことはなかった。

「おにーさん、ヒトじゃないんだ。」

視力7.0の義眼は、憑かれたように彼女から目を離せなくなった。



「そう、目は作り物。ほかの臓器も大方機械だし、筋肉や神経も半分は人工。あ、脳味噌もね。あはは、だからそうねぇ、半分アンドロイドなわけだね。どう、びっくりした?」

行きつけのスイーツバーで、ボクがキャラメリゼ・ド・チョコラータパフェのトリプルを突きながら喋る間、彼女―――エマちゃんは、チェリーボンボンポップドーナッツを頬張りながらそれを聞いていた。
大好きなスイーツバーに誰かと来られることがとても嬉しくて、ボクは些か饒舌になっていた。
いきなりSFチックなことを語られて戸惑っているかもしれないと不安になりながらエマちゃんを見ると、さも可笑しそうに笑っていて。

「なーるほど。道理で呪えなかったわけだぁ。あたしの呪いは、生きてるモンにしか効かないからね。」

呪術師を名乗る彼女は、ボクの秘密のお返しに、自分の秘密を教えてくれた。
目を見つめなければ術をかけられないこと。
生きているものにしか効果がないこと。
そして、呪いには大きな代償があること。

「人を呪うば―――ん?呪えば?呪い、ば……?ええーと、なんだっけ。」
「人を呪わば穴ふたつ?」
「そう、それ。よーするに、誰かに呪いをかけることは、自分を呪うことと同じってことさ。」

………ちょっと違う気もする。


他愛もない話をしながら、並んでおやつを食べる。
それはとても楽しい時間だった。
エマちゃんは、ボクの裂けた唇や縫い目のある肌を見ても全然驚かないし、機械化した皮膚と正常な肌の境目がガタガタなのも笑わないでくれた。
とても良い子だった。
すっかりおやつを平らげるまで、尋ねるのを忘れていたくらい。

「ボクにどんな呪いをかけて、どうしようとしたの?」

今更隠す必要もないと思ったのか、食後のカフェオレを堪能しながら彼女は言った。

「催眠術をかけて、財布とか金目のもの、貰おうと思ったの。あたし、ドロボーもしてるから。」

カフェオレの水面で蕩けるマシュマロのような、おぼろげな目つきで。
平然と懺悔された言葉の中には、彼女の生きて来た道の過酷さが滲んでいたので、ボクは咎めることをしなかった。

「ウィリアムさんは、あたしをケーサツに突き出さないの?」
「んふふ。未遂だし、許してあげる。……ただし、条件!」

金属の指で天を指す。

「ボクと友達になってよ。」

エマちゃんはころころと笑った。

「やだぁ。もう友達じゃーん。」

美味しいおやつを一緒に食べて、秘密を共有して、語らって。
そうしたらもう友達なんだよ、って、彼女は教えてくれた。
だからここの代金は払ってね、だって。それも友達なら当然のことらしい。


「ウィリアムさん、お友達の証に、良い呪いをかけてあげようか。」

スイーツバーを出たとき、彼女は疲れた瞳で僕を見上げて言った。

「……呪いに良い悪いって、あるの?ていうか、ボクには効かないんじゃ…」
「完全には機械じゃないんでしょ?だったら、頑張れば……すっげーキツイんだけど、奢って貰っちゃったし、とくべつ。」

キツイというのは代償のことだろう。友達に辛い思いをさせるのは嫌だけれど、気になるので訊くだけ訊いてみた。

「どんな呪い?」

「身体を退化させる呪い。」

彼女の言葉が意味することは、

「ウィリアムさんの身体を、一日だけ、人間に戻してあげられる。」



ボクは過去を捨てた。
自分の身体が自分じゃなくなったとき、心臓が機械になったとき、要らなくなったんだ。
それよりももっと欲しいものを手に入れられたから。
でも、もし。
もし人間のままで、人間の手で、人間の生に触れられるなら。
それほど素晴らしいことはないでしょう?



「いーい?明日の深夜12時までだかんね。」
「あはは、シンデレラみたーい!わくわくする!」

エマちゃんに呪いをかけてもらったあと、真っ青な顔の彼女をおんぶして、宿まで送ってあげる道中。
義眼ではなく肉眼を通してみる世界は、何も変わっていない筈なのに、とても輝いて見えて、何度も彼女にお礼を言った。

「はい、とうちゃーく。」
「ありがと。………じゃあ、くれぐれも時間には気をつけなよ。」
「うん、わかってる。エマちゃん、本当にありがとう!」

宿の前で背中から下ろすと、立っているのもやっとの様子で力なく笑ったエマちゃんは、ボクの顔を見た途端、目をまん丸にした。
ずっと濁っていた緑色の瞳が、一瞬ぼんやり光る。

「え、なに?どうしたの?」
「……いや。 ………なんかさ、ウィリアムさんて結構、…かっこいいんだね。顔。」
「えっ、そう?!やだー照れるなー!」

ああ、そうか。ゴーグルとマスクを外しちゃったから、きちんとした素顔が見えたんだ。
22歳の身体に戻ったボクは結構、いけているらしい。
女の子にかっこいいと言われると、すごく照れる。でも嬉しかった。


「じゃあ、またね。」
「うん。……ホントに身体、大丈夫?」
「あはは、へーき。がんばるし。」

彼女は手を振って宿の中へ消えていった。
その小さな背が見えなくなってから、ボクは宿に背を向ける。
ゴーグルを介さない世界を見ながら、金属音の混じらない様々な音を聞きながら、マスクに遮られない空気を吸いながら。

この身体で何をしよう。
ずっと試したかったのに、機械の身体の所為で叶わなかった方法で、いっぱい人を殺そう。
命が一番震える瞬間を、見て感じて味わって。
使う薬は新作のアレがいい。
それからあのスイーツバーで、生クリーム本来のふわふわと甘みをたっぷり楽しむんだ。
そうだ、エマちゃんを誘おう。お礼をちゃんと言いたい。また一緒に美味しいお菓子を食べるんだ。
ああ、はやく、はやく。待ちきれない。
はやく、 殺したい。

たった一日の、しあわせの呪い。







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