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木を隠すなら森の中。多少なりとも教養のある者なら聞いたことがあるであろう、そんな謳い文句がある。
この理論に従うならば、人を隠すなら人の中という説も成り立つ筈だ。
勿論、鬱蒼と草木が茂る森の中の方が、逃げ場も多く身が隠しやすいなどのメリットは多い。
だが追い詰められているからこそ、古くから伝わる言葉に準じ、自ら立てた仮説を実証してみるのが大事なのではないだろうか。
今でも自分を科学者の端くれだと認識している俺は、そう考える。

というか、第一に、いつまでも汚ェ森の中に居たくはねーんだよ。
服汚れるし湿っぽいし、魔物は怖いし夜は暗いし!
俺だってまだ半分は人間なんだ。自然に順応しきるのは無理。


森の近くの大きな都市に出てきた俺は、久々の”人間”らしい生活感溢れる環境に、心の昂ぶりを感じた。
しかし此処で舞い上がってはいけない。これだけの人が集まる大きい街だ、施設の奴らが既に手を回している可能性は高い。
奴らがどんな手段を使ってくるか分からない今、堂々とした振る舞いはできない。
昼間の内から酒場に飛び込んで、ウィスキーでもラム酒でも葡萄酒でも浴びるように飲みたい気分だが、ぐっとこらえる。
我慢だ、我慢。 街に来られただけでも、今の俺には十分すぎる幸せ。
人が行き交う大通りを避け、昼間でも仄暗く湿っぽい路地裏に飛び込んだ。
…………この雰囲気、森と大して変わんねーじゃん。クソ。

目的は、
服の洗濯、腹ごしらえ(新鮮な果物を食べたい)、出来れば酒も。
十分な金はないが、これくらいなら何とかこなせるだろう。
まずは洗濯機を借りようと、あまり人気のなさそうな宿屋を探すことにする。
用心のため姿を消し、路地裏からこっそり表通りを覗きこみ、周囲を窺った。
宿、宿………小さくて、あんまり目立たない宿。
表通りにはねえかなぁ。 そう思い、場所を変えようとしたときだった。


「――――あー………ええと。これは、参ったな……。」


すぐ傍で、苦々しい声色が聞こえた。
人々が足を止めることなく往来する道の端っこ。二人の人間が立っている。
一人は大柄で、短く切りそろえたブロンドヘアと綺麗な青い双眼が特徴的な、小綺麗な服装の男。大きなスーツケースを持っているから、おそらく異国の者だ。
そしてもう一人は、かっちりした軍服に身を包み眼帯をしている、黒い髪の男。よく見りゃ帯刀してやがる。こっちはマジモンの軍人か、あるいは剣士か。
ちょっぴり異様な組み合わせの二人組だが、知り合いというわけではなさそうだ。

先程の困り果てた声は、黒髪の軍人のものらしい。彼は頭を掻き、顔を顰め異国の男を見上げている。
対して異国の男は、戸惑い気味に眉を下げて、大袈裟な身振り手振りを交え何かを伝えようとしている。
そんな様子を見れば、すぐ分かった。
恐らく異国の男は、迷っているのだ。建物か何かの場所を軍人に尋ねているのだが、軍人は異国の言葉が理解できず、何も答えられない。
困惑が困惑を生む負のスパイラルが、そこにはあった。


見ているこっちも不安な気持ちになる光景である。
経験から言わせてもらうと、言語の壁というのは初めてぶつかる者に対し、ひどく冷たく、そして分厚い。
押してもびくともしないし、引こうとしても壁には引くために掴む持ち手がないもんだから、手の打ちようがない。
胸中に広がる不安とストレス、耳に飛び込んでくる理解が及ばない言語。
まったくもって嫌な気持ちになるもんだ。
俺には分かる。
学の浅い時分、世界各国から最先端の技術が集まる研究所で、外国人の外国語の説明を聞かされ、外国語で書かれた説明書を渡され、何度も頭を痛めたもんだ。
分かるぞ、軍人さん。
しかし俺とアンタの決定的な違いは、散々痛い思いをしてきた今の俺は、異国の言葉が理解できちゃってるってこと。


「あーっ、もう見ちゃいらんねーんだよなあ!」

気づけば路地裏から姿を現していた。
突然の出現者に驚く両者の間に割って入ると、異国の言葉で異国の男に尋ねる。

『何かお困りですか?』

異国の男は屈強な体型に似合わぬ華やかな笑みを咲かせると、嬉々としてマシンガントークをはじめた。
俺はひとつひとつ聞き取っては頷くと、今度は目を白黒させている軍人の方に顔を向け、

「この街の役場はどこかってさ。」

こちらの言語に合わせて翻訳し、伝えた。
意味は分かっても、この街のことは分からない俺は、直接質問に答えられないから。
超優しい俺が、余計な部分を端折ってとっても分かりやすい表現に直してやったってのに、軍人は未だ混乱しているようだ。
んだよ、ちょっと汚い身なりだからって不審者扱いか。
ま、不審者だけどね悔しいことにね。

「おい、聞いてんの?!この街の役場はどこかってさ!俺、この街の事知らねーんだよ!アンタは?!知ってんの知らないの、どっち!」

苛立ち任せにまくし立てると、軍人はやっと我に返ったように口を開いた。

「や、役場は……この道を真っ直ぐ行き、突き当たりを右に曲がった先にある、緑色の屋根の建物だ。大きな建物だから、すぐ分かる。」
「あっそ、どーもね。」

軍人の回答を受け、異国の者にそのまま翻訳して伝えると、男は大袈裟に喜んではでかい手で振り回すように握手をし、颯爽と人混みに消えていった。
残されたのは、握手の衝撃に耐えようとする俺と、呆気にとられる軍人。


「あいつ力強すぎだろ………肩抜けるかと思った。」

異国の野郎は手加減とお世辞と建前を知らないところが気に食わん。

「君、手間をかけてすまなかった。ありがとう、助かったよ。」

肩を押さえてぶつくさ文句を言う俺に、横から声をかけてくる軍人。
顔面には安堵の表情が浮かんでおり、深く頭を下げてくるから、なんか妙にくすぐったい気分。

「別に。大したことしてねーし。つーかアンタさ、軍人さんなら異国の言葉のひとつやふたつ、ちょっとくらいは喋れなきゃダメっしょ、今時。」

ま、俺は5ヶ国語話せるけどね。

「………俺は軍人ではないぞ、ただの旅の者だ。」
「あ、そうなの?そんな服着てっから、てっきり…………ま、別に何でもいいけど。」

俺の嫌味にも気分を害した様子なく、クソ真面目な切り返しをしてくる軍人―――ではなく旅の男。
つーか軍人だったら色々ヤバかったのでは?
今更ながらひやっとする。
今も、こうして人が大勢いる大通りに突っ立っているのは好ましくない。
慌てて周囲に視線を巡らせて、俺は元の裏通りに戻ろうとした。

「じゃ、俺はこれで。急いでるんで。」
「ちょっと待ってくれ。何か礼をさせてくれないか。」
「はぁ?!いいよ別に、大したことしてねーっつっただろ!」
「俺の気が済まないんだ。頼む、何かさせてくれ。」

なんなのコイツ。頑固か。
俺の肩を掴んで真剣な眼差しで頼み込んでくる男を前に、超優しい俺はその手を振り払うことをできない。
暫し考えあぐね、本来の目的を果たしたら些か寂しくなりそうなお財布の中身を思い出した俺は、こう答えることにした。

「…………そこまで言うなら、……えーと、アンタ、旅の人だよね?この街に宿、とってる?」
「ああ、一応。小さい宿だが。」
「洗濯機と乾燥機、ある?」
「あるぞ。」
「じゃあ服、洗わせて。」
「それだけでいいのか?」
「…………じゃ、果物。あと、酒も。」
「分かった。では、宿で服を洗ったら、大きな店に買い物に行こう。」
「あーっ、でかい店はヤダ!」
「何故だ。果物も酒も多く揃っているぞ。青果店と酒屋で別々に買うより、手間もかからないし………」
「バカかおめぇ、専門店で買った方が安いし質がいいんだよ!!」


納得いっていない様子の男をなんとか説得し、俺は無事綺麗な白衣と新鮮な果物、そして久々のアルコールにありつくことができた。
人助けも、たまにはするもんだ。
宿や店を渡り歩く道中、男はキサラギと名乗り、様々な箇所を旅してまわっていると話した。
だったらなおさら異国の言語を知っておけと、俺は簡単な挨拶や基本会話を教えてやった。
キサラギは俺のことを知りたがって色々と尋ねてきたが、まさか逃亡中の実験体ですとは言えず、俺はてきとうにはぐらかした。
幸い、キサラギの目は俺が”普通の人間”として映っているようだったし。

「またどこかで会うかもしれない、名前だけでも教えてくれないか。」

……………名前、ね。
うーん、やべえ。本名名乗るわけにもいかんし。
しかし頑なに答えないのも妙だと思われる。

「ろ―――ろ、ローレンス。」

咄嗟に浮かんだ偽名を、口にした。


「ローレンス。いずれどこかで出会ったら、また異国の言葉を教えてくれ。」

別れ際、宿の出口まで見送りに来る律儀すぎる男・キサラギは、そう言って微笑んだ。
いずれ、どこかで、か。

「はは。だったらそん時までに、今日教えた言葉、忘れんなよ。」
「ああ、分かった。では、また。気を付けてな。」
「そっちこそ。」

まるで、古くからの友人同士の別れのような、しかしどこか淡白な、不思議な感覚で俺たちは手を振る。
キサラギは街の中へ。俺は森の中へ。
アイツと俺は、同じ放浪の身にあっても、向かう場所が全く違う。

またいずれ、どこかで、アイツに会うときは。
堂々と酒場で酒が飲めるようになっていたらいいな。
そしたらアイツと酒を酌み交わしたい。
頑固で生真面目で融通きかなそうだけど、根はいい奴なのだろうから。
なんて思いながら、俺は真っ白な白衣を翻し、森へ急ぐのだった。
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